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【文化評論】マリウポリの20日間

2024-12-15 21:07:31
2024-12-15 22:23:20
目次

 5月30日、上映最終日に「マリウポリの20日間」を見た。これが現実か。言葉にできない衝撃を抱くとともに、胸が締め付けられる思いをした。

 「マリウポリの20日間」は、第96回アカデミー賞において長編ドキュメンタリー賞を受賞したミスティスラフ・チェルノフ監督の作品である。チェルノフは、ロシア軍によるウクライナ侵攻の初めのターゲットとなったマリウポリにジャーナリストで唯一留まり、脱出するまでの20日間、侵攻による惨状を撮影し続けた。

 映画は、Day1の表示とともに始まった。何の変哲もないマリウポリへ続く道をチェルノフは映し出す。「戦争は爆撃ではなく静寂から始まる」というナレーションが印象的だった。しかし、マリウポリに到着した頃にはロシア軍による爆撃が始まり、街の騒然とする様子、その緊張感、全てがあまりにリアルに映し出された。

 その後、Day2、Day3と悪化する爆撃、壊れゆく街が映し出されて行く。その中でチェルノフは、出会った人々にその思いを聞き続ける。多くの市民は先の見えない不安をこぼす。一日一日と惨状が悪化するのに伴い、映像はより悲惨なものとなってゆく。チェルノフが映し出すのは爆撃を受けて動かなくなった子供、それを抱きしめ泣く両親、手を尽くすことができず涙を流す医師たち、簡易的な埋葬場に溢れる遺体。その全てがあまりにもリアルで気がつくと私は涙を堪えることができなくなっていた。

 惨状が悪化してゆく映画の後半、「私に何ができるのか」とナレーションは言う。 Day20でチェルノフはマリウポリを脱出し、戦禍で電波が途絶え届けられていなかった戦場のリアリティーを全世界に届けた。ナレーションは「私は家族に会うことができるだろう。そしてマリウポリに取り残された人々もそうであることを願う」と話した。

 この映画を見て、私は今世界で起きている戦争のリアルを目の当たりにした。きっと、ウクライナ侵攻がニュースになった当初多くの人が持っていた関心も薄まっている現状がある。日常を普段通り生きる私たちは、しょせんニュースとしてしか認識できず、戦争が起きている現実に慣れてしまってはいないだろうか。私はこの映画を通してリアルを見て、戦争に慣れてはいけないと、その重さを実感させられた。

 もちろん現在命の危険と隣り合わせにあるのはウクライナだけではない。ガザへの攻撃も昨今ひどさを増している。私たちはこのような現実にどう向き合うべきなのか。少なくともそれを真剣に考えるきっかけに、この映画はなると確信する。

(画像は映画公式サイトより)

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